会社側と労働者の間で各種条件を決めるのが雇用契約です。しかし、この雇用契約の際に発生する書面として、「雇用契約書」と「労働条件通知書」の2種類があることをご存知でしょうか。
実は、これらの書類は署名捺印の有無や発行方法などに違いがあるのです。
そこで、この記事ではそれぞれの違いを詳しく解説した上で、この手続きの電子化の流れについても解説します。
目次
雇用契約書と労働条件通知書とは
会社側は雇用契約の際にどんな書類を用意すべきかで迷い、労働者側も雇用契約書をもらったかどうかわからなくなり、不安になるかもしれません。
まずは雇用契約書と労働条件通知書の違いを押さえることが、その不安の解消につながります。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書は、労働条件についての取り決めをした契約書で、発行は義務ではありません。会社側・労働者側双方が記名捺印し、それぞれが1部ずつ保管します。
労働条件通知書は労働者の記名押印を必要とせず、会社側が労働条件を明記し、一方的に労働者に通知するものです。労働基準法で定められており、作成が義務付けられています。
雇用契約書が契約に基づくものであるのに対し、労働条件通知書は一方的な通知というところがポイントです。当初の契約条件と異なる事象が発生した場合、労働条件通知書のみの作成だと、「渡した」「渡してない」のただの水掛け論になる可能性があります。
雇用契約書の作成が義務ではないといえ、安易に労働条件通知書のみに頼らないようにしましょう。
〇兼用の書類もある
とはいえ、2種類の書類を準備するのは面倒に感じるかもしれません。そんな時は、「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2つをまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」を活用するのもひとつの方法です。
作成時にはテンプレートを使用する
雇用契約書や労働条件通知書をいきなり作成するのは難しいです。そこで、インターネット上にあるテンプレートを活用するのも良いでしょう。
テンプレートにはWordやExcel、PDFなど様々な形式があるので、自分で入力しやすいようにアレンジすることもできます。
〇労働条件通知書は厚生労働省の雛形がある
これらは法的な書類なので、信頼感に欠けるサイトからダウンロードし、後で労働条件に漏れがあったなどというのも避けたいところです。そこで、公的機関のテンプレートを活用するのも良いでしょう。
厚生労働省のHPには、労働基準法関係の主要様式が揃っています。労働条件通知書も、WordやPDF形式でダウンロードできるようになっています。
※参照: 主要様式ダウンロードコーナー
雇用契約書や労働条件通知書の注意点
雇用契約書や労働条件通知書の作成にあたって、いくつか注意点があります。これを押さえておかないと、後々トラブルにもつながりかねないのでしっかりと覚えておきましょう。
労働条件通知書は交付が義務
労働条件通知書は義務であることは既に述べましたが、これは相手側にしっかり明示されるところまでが義務です。企業側は、労働条件通知書を紙面での交付などの手段でしっかり労働者側に伝わるにようにしなくてはいけません。
この明示を怠った場合、労働基準法第120条では30万円以下の罰金が科せられると記されています。
派遣労働者やパート従業員にも対応が必要
労働条件通知書の作成相手は正社員に限らず、派遣労働者やパート従業員、アルバイトにも必要です。短期間のアルバイトであっても、労働契約である限り不可欠ですので注意しましょう。
雇用契約書や労働条件通知書の書面がない場合
ここまで、雇用契約書や労働条件通知書の重要性を解説しましたが、実は書面がない場合もあります。労働条件通知書は義務と説明したので、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。ここでポイントになるのが電子化です。
2019年から電子化が解禁
2019年4月から、労働条件通知書を電磁的方法で提供することが認められました。今までは書面による交付が不可欠でしたが、この変更により電子メールなどでの労働条件通知が可能になりました。
ただし、この手法によるには、3つの要件を満たしていなくてはなりません。
1)労働者が希望している
2)その労働者を特定し、本人のみに送信される
3)労働者が紙などに出力できる状態である
これらを満たすことで、はじめて電子的に通知が可能となるのです。
雇用トラブル回避のためにしっかり準備しよう
以上、雇用契約書と労働条件通知書の違いを解説しました。雇用契約書は義務ではない一方、労働条件通知書は義務という違いがあります。
しかし、労働条件通知書のみであれば、後に条件面での食い違いが生じるかもしれません。できる限り、雇用契約書も発行しましょう。
契約書の準備は手間がかかると考えている方は、電子契約の活用もひとつの解決策です。労働条件通知書の電子的通知も解禁されているので、今後電子化はますます進んでいくことでしょう。