昨今、複雑化する契約において、当事者への説明義務が十分に守られない事例も珍しくありません。説明義務が不十分であったために一方の当事者が損失を被った場合に、契約はどのような扱いが適切なのでしょうか。
この記事では、説明義務違反があった契約がその後どういった対処が可能なのかについて解説します。
目次
契約準備段階における説明義務
まず最初に、契約の準備段階における説明義務について解説します。
民法上の規定
民法における契約準備段階における説明義務については、民法第1条第2項によって律されるとされています。
民法第1条第2項では「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と規定されており、説明義務もこれに含まれるものであるとされているのです。ただし、現行の民法には「説明義務」という単語は使われていません。
個別の法律による規定
契約の種類によっては、その契約に関係する個別の法律によって規定されている場合があります。
例えば「保険契約」の場合だと、
・元本欠損のリスクについての説明(金融商品の販売等に関する法律)
・業務にかかる重要事項等の説明(保険業法)
・投資性保険における交付書面についての説明(金融商品取引法)
といった説明義務が規定されています。
説明義務違反があった場合の契約のゆくえ
次に、契約の準備段階において説明義務違反がある場合、契約はその後どういった効果をもたらすのかについて解説します。
損害賠償責任にとどまるケースが多い
ケースバイケースではありますが、説明義務違反があったとしても「損害賠償請求」ができるにとどまるケースが多いです。契約するかどうか考える際に十分な説明がなされなかったことで「契約をなかったことにしたい」と考える人も多いでしょう。
そうなると「無効または取り消し、または解除の請求」をしたいと考えるのが一般的ですが、民法では説明義務違反に関して契約のゆくえを規定していません。説明義務違反があった場合には「不法行為(説明義務という債務の不履行)」として扱われる場合があるのですが、民法では不法行為に関しては損害賠償責任のみ規定しています。
つまり、説明義務違反そのものを理由として当該契約を無効や取り消し、解除の請求はできないとされているのです。
契約の取消や解除が認められる可能性も
ただし、過去には説明義務違反を理由として当該契約の解除を認めた判例も存在します。考えられるケースとしては、当該契約の説明義務違反に関して「詐欺」や「錯誤」が認められる場合です。
民法では、詐欺による契約の取消および錯誤を理由とする契約無効の主張(改正後は取消要件に変更)を認めています。ただし、あくまでも説明義務違反が詐欺や錯誤に該当することが裁判で認められなければならないため、その立証は簡単なことではありません。
説明義務違反があった契約の判例
最後に、説明義務違反について触れている判例を3つ紹介します。
最高裁、平成23年4月22日の判例
この事例では、債務超過の状態にあり破綻認定を受ける危険性があった状況下であることを説明せずに個人および会社に出資をさせた後、経営破綻したことで払い戻しを受けることができなくなったことで裁判となりました。
裁判では、説明義務を果たさなかったことにより不本意な契約を結んだという事実があったにもかかわらず、不法行為を理由とする損害賠償責任を認めるにとどめる判決が下されています。この判例は説明義務違反に関する契約のゆくえを判断するにあたって参照されるケースの多い判例の1つです。
東京地裁、平成27年12月25日の判例
この事例では、不動産売買において売買された不動産の付近にある送電線の存在について十分な説明がなされず、住人に危険が迫る可能性があるなどの理由から裁判になりました。
裁判では、主位的に請求された契約解除に関しては争点となった送電線による制限が法律の制限内であるなどの理由から認められず、説明義務違反による不法行為はあったとして慰謝料および弁護士費用の支払い義務が認められました。この事例においても、契約の解除などは認められていません。
千葉地判、平成23年2月17日の判例
この事例では、不動産売買において「接道義務」を満たしていないことで購入後に別の不動産会社に買取を断られたため、接道義務について十分な説明がされなかったことから裁判となりました。
裁判では、接道関係は建て替えや転売などに影響するため説明義務があった不動産会社の不法行為を認め、適性な売買金額相当額との差額などの賠償責任を認めました。この事例ではもともと原告側が説明義務違反などを理由とする契約解除などの請求をしていなかったものの、説明義務違反が不法行為であると認められ損害賠償請求が認められる余地があるとわかる事例の1つです。
説明義務違反のトラブルは専門家に相談
契約時に説明違反があった場合の対応はケースバイケースです。損害賠償請求できることが多いですが、一部の契約は錯誤などを理由に無効や取消を主張できる可能性があります。
契約義務違反があった契約で少しでも納得できる結果に導くためには、契約問題に詳しい専門家に相談して解決しましょう。