民法改正が2017年に行われ、2020年から施行されています。
民法改正によって新たに設けられた定型約款について、その適用範囲がよく分かっていないという方も多いかと思います。中には適用について見解の余地があるものも存在するため、詳しく知っておく必要があるといえます。
今回は定型約款の適用範囲について解説いたします。
約款とは?
約款とは、契約当事者の一方のみよって作成された同じ取引内容を示す契約の条件の集合体のことを指します。
また、大量の同じ取引をスピーディーかつ効率的に行うために作成された定型的な条項のことも約款といいます。
公共交通機関を利用する際の運送約款や、ネット通販などで見かける利用規約などが約款に当てはまります。
このように、約款はわたし達の生活に溢れている契約なのです。
約款の問題点
約款には問題点がいくつかあります。まず挙げられるのが、契約内容が当事者一方の意向のみで作成されるものである点です。
また、取引の相手方には事実上、条項を拒否する機会が与えられていない点、個々の契約条項について詳細に理解していない場合がほとんどである点なども問題とされてきました。
つまり、約款取引はこれまで一方(主に事業者)にとって圧倒的に有利であるものが多かったのです。
民法改正の内容
先述のような問題点を解決するために2017年に民法改正が行われました。その中で新たに設置されたのが「定型約款」です。
改正により定型約款は「定型取引において契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体(民法548条の2)」と定義づけられました。
注意しておきたいのは、約款と定型約款が異なるものであるということです。改正民法は上記の定義を満たす約款のみに該当し、全ての約款に適用されるというわけではありません。
定型約款の適用範囲
次に、定型約款の適用範囲についてご説明いたします。
定型約款の範囲
定型約款の範囲は、上記のように「定型約款において契約の内容とすることを目的としてその特定の者によって準備された条項の総体」ではありますが、そのほかにも定型取引に該当する取引の契約であるかどうかについても重要なポイントになります。
定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であり、その内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの(民法548条の2)」と条文によって定義されています。
定型取引の要件
定型取引は次の要件を満たしている必要があります。まず、特定の者が不特定多数の者と取引を行うという点です。この不特定多数の者とは、個性や能力について着目されない場合にのみ該当します。
次に、契約の内容が画一的であることが合理的である点です。そのため、契約書のひな型のように、事業間の取引になどは当てはまらないといえます。
また、定型取引による約款とするためには、あらかじめ当事者の一方によって定められた条項の集合体である必要があります。
定型約款の範囲に見解の余地があるもの
最後に、定型約款の範囲に見解の余地があるものについてご説明いたします。しっかりと理解しておきましょう。
建物賃貸借契約の約款
建物賃貸借契約の約款は、個人が経営する小規模な賃貸用建物の場合、部屋の条件などに応じて個別に賃貸の条件が定められるべきであるとして、定型約款には当てはまらないとされています。
しかし、複数の大規模な居住用建物の場合、建設した大手の不動産会社が同一の契約書の約款を使って各居室の賃貸借契約を締結している場合には、定型約款に該当する場合もあり得るとされており、見解が分かれています。
銀行取引における約款
銀行取引などの金融機関による取引には、取引ごとにそれぞれ約款が用意されているため、それぞれについて個々に適合性の判断を行うべきであると判断されます。
たとえば普通預金契約の場合、同一条件による不特定多数との契約である必要性が高いことから定型約款に該当すると考えらえます。しかし、カードローンや住宅ローンなどの契約についてはまず審査が行われ、その結果に基づき個別に融資条件が決定するため、見解の余地があります。
このように銀行取引の約款は民法の研究者や実務家の間でも見解も分かれているものであり、今後の判例や議論の展開について注目しておく必要があるといえます。
該当しない約款は?
定型約款に該当しない約款については、これまでの判例などによって積み重なってきたルールが適用されます。定型約款による公共性が高い取引が規範を定められたことにより、それ以外の私的な要素が高い約款には、これまで以上に厳しい規範が適用される可能性が考えられます。
まとめ
民法改正が行われたことにより定型約款が新設されましたが、定型約款が適用される範囲にはいくつかの要件と見解が存在します。どのような要件や見解なのかをきちんと把握しておくことで、これまで扱っていた約款がどのような扱いに変わるのかを知ることができます。
特に、約款を作成する事業者は適用範囲についてしっかりと理解しておく必要があります。